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27話 王都での騒動・ユウヤの拘束とミリアの怒り

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-07-08 07:00:36

 ――この空気……誰か来たな。  王様か、ミリアか……。  どちらにせよ、ただ事じゃない気配だ。

 そう、俺は今――王都の出入り口にある警備兵の詰め所、その牢屋の中にいた。  当然ながら、盗賊と“同じ扱い”で、しかも“同じ牢屋”に入れられているというオマケ付きだ。

 ……いや、ほんと、どうしてこうなる。

 そんな中、見慣れた顔――王様が詰め所に入ってきた。  目が合った瞬間、その表情が驚きと焦りに染まる。

「ユウヤ様……っ! 申し訳ない! このお方を、早くお出ししろ!」

 王様が声を荒げて兵士に命じると、周囲の兵たちも慌てて動き出した。  王の言葉に倣い、全員がその場に跪き、頭を垂れる。

 だがその顔には、驚愕と困惑が入り混じっていた。  ――平民の男に、王が頭を下げている。  その異様な光景に、兵士たちは内心の動揺を隠しきれていなかった。

「いやぁ……王様からもらったナイフ、ちゃんと役に立ったよ」

 俺は苦笑いを浮かべながら、皮肉まじりに言った。

「はぁ……役に立ったとは到底思えませんが……渡しておいて良かったです」

 王様は深いため息をつきながらも、どこか安堵したような表情を浮かべていた。

「でも、当然ながら信じてもらえませんでしたけどね」

 俺が肩をすくめて言うと、王様は申し訳なさそうに目を伏せた。

「……本当に、申し訳ありません……」

 その声には、心からの謝罪がにじんでいた。

「いや、王様が悪いわけじゃないですから。気にしないでください」

 そう言って笑ってみせると、王様はふるふると手を震わせながら、横目で兵士たちを睨みつけた。  その目には、明らかに怒りの色が宿っている。

 ――ああ、これは……後で詰め所の連中、相当怒られるな。

♢ミリア、怒る

「ユウヤ様! ご無事でしたか……ううぅ……ユウヤ様……!」

 ミリアが駆け寄ってきて、震える腕で俺をぎゅっと抱きしめた。  その顔は俺の胸元に埋められ、彼女の安堵がひしひしと伝わってくる。  その小さな肩がかすかに震えていた。

「ご無事で安心いたしました……」

 王様も、改めてミリアに向かって深々と頭を下げた。

「王様には、いろいろとご迷惑をおかけしました」

 俺がそう言うと、ミリアがむくれて頬をぷくっと膨らませた。

「もぉ~っ! わたしもすっごく心配したのですけれどっ!」

 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。  ミリアが、心から俺のことを案じてくれていた。それが、ただ純粋に嬉しかった。

「ミリアにも、心配かけたね」

 そう言って、彼女の頭をそっと撫でる。  すると――背後から、ビリビリとした殺気のようなものが……。

「……あのさぁ、ミリアの頭を撫でるたびに、なんか殺されそうな気がするんだけど」

 俺が苦笑しながら言うと、ミリアは小首をかしげた。

「え? 誰に殺されるのです? そんな方がいたら、うちの護衛が始末してくれますわ」

 いや、その護衛が一番殺気出してるんだけど……。

「いや……毎回、護衛の人たちから殺気を感じるんだよね……」

「そんなわけありませんわ。ユウヤ様を傷つける者がいたら、わたくしが許しませんものっ♡」

 そう言って、ミリアはさらにぎゅっ♡と抱きしめてきた。  周囲の視線が痛い。特に護衛の視線が……。

「誰だか知りませんが……今後ユウヤ様に殺気を向けた方は、わたくしが許しませんからねっ!」

 ミリアはにっこりと笑いながら、周囲に向けて宣言する。  その笑顔は可憐でありながら、どこか背筋が寒くなるような迫力があった。

「ユウヤ様……注意はしておきましたわ」

 そう言って、ミリアは満足げに頭を下げてきた。――撫でろ、ということらしい。  俺が再び彼女の頭を撫でると……うん、殺気は消えた。だが代わりに、今度は“怒り”の視線が突き刺さってくる。

 ――ああ、これはこれで面倒くさい……けど、まあ、悪くないかもな。

♢誤解とミリアのご機嫌取り

「護衛をつけていたにもかかわらず、このような事態を招いてしまい……誠に申し訳ございません、ミリア皇女殿下」

 王様が深々と頭を下げる。その言葉に、周囲の兵士たちが一斉に息を呑んだ。  “皇女殿下”――その一言で、ようやく彼らも事態の重大さを理解したらしい。  兵たちの顔には、驚愕と畏怖が入り混じり、場の空気が一気に張り詰めていく。

「それで……なぜ、ユウヤ様の手に縛られた痕があるのですか? しかも、牢屋の前で……。  保護していたのではなく、まさかとは思いますけれど……拘束、していたのですか?」

 ミリアの声が低く、冷たく響いた。  その瞬間、王も兵士たちも凍りついたように動きを止める。  場にいた全員が、息を飲んだ。

「それは……俺が、さっき王様からもらったナイフを兵に見せたら、偽造品とか盗品じゃないかって疑われちゃってさ……」

 俺は正直に答えた。別に隠すことでもない。

「それで……拘束されていたのですか?」

 ミリアの声には、明らかな怒気が込められていた。

「まあ、疑われても仕方ない格好だったしね。平民の服装だし、俺」

「へぇ……わたくしの大切な婚約者を、またしても拘束なさったのですか?」

 ミリアの瞳が細くなり、声の温度がさらに下がる。

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